朝まだき 犬をお伴に連れて

海へ行った

人魚が下から浮き上がってきて

わたしを見つめた

 

波の上の フリゲート船が

麻のごとき手を伸ばしてきた

わたしが砂の上の

ねずみに見えたみたい

 

誰も浜辺からわたしを動かしはしなかったけど

潮が満ちてきて わたしの普段の靴を浸し

エプロンを浸し ベルトを越えて

胴衣までも越えて

 

まるで たんぽぽの袖の

露のしずくを呑むように

わたしを丸呑みにしようとするので

わたしは歩きだした

 

海の潮は迫ってくる すぐうしろ

潮の銀のかかとが

わたしの足首に触れた感触

わたしの靴に真珠の玉が溢れてくる

 

ついに わたしたちは堅牢な街に着く

街には見知った顔はないらしく

海は 頭を低くして わたしに強い一瞥を放って

それから 引いていった

 

エミリー・ディキンスン詩集 「わたしは名前がない。あなたはだれ?」詩作品520
内藤里永子編・訳

  

こんにちは。みなさまいかがお過ごしですか。

初めての北陸の日々は、暦の上では冬も本番なはずなのに、小春日和のような気候の日が多くて、かえって心配になります。

 

私はと言えば越前海岸でも、大好きな文学に触れながら作品に向かっています。

環境が変わって、これまでは出会えなかった情景に、自身の作品の中で出会っています。

 

ここは日本海なので、時代も国も違い、ディキンスンが見ていた風景とはだいぶ異なるかとは思いますが、

 

朝まだき、

 

とは、朝早く、という意味。

朝早くに起きて、犬と一緒に海辺を歩く。

そんな暮らしが実現するとは、一年前には夢にも思っていなかったこと。

 

潮の 銀のかかとが 足首に触れた瞬間

靴に真珠の玉が溢れてくる

 

なんて素敵な表現なのでしょうか。

ここは敢えて、絵にするよりも、この一文を読む方の頭の中に拡がる風景を噛み締めて、味わってほしいと思います。

 

いまも、潮騒の聞こえてくる部屋にいますが、この音も一緒に届けることができたら良いな、と思います。