版画ゆうびん

おさのなおこが綴る越前海岸からの版画の便り

春の味覚に馳せ走る

馳せ、走る、と書いて、ご馳走。

「ご馳走」とは、本来「走り回ること」「奔走すること」の意味ですが、昔は、客の食事を用意するために馬を走らせ、食材を集めたことから、そのようにして用意したおもてなしの仕方をこう表現するようになったそうです。

ここ越前海岸では、馬を走らせなくても、目の前の海で取れた海藻や魚介、近隣の野山を歩けば、特に春はさまざまな種類の野草などの旬の食材が黙っていても手に入り、お客さんも来ないのに日常的に、「ご馳走」にありつけます。

漁が解禁になるわかめ、アイシャドウが美しい天然の鯛、カレイ、ぶりに似た、ナル、山の恵みは、しいたけ、フキ、よもぎに筍など、たくさんいただきます。潮風を受けた食材は、どれも風味豊かでハッとさせられるような味わいです。

椎茸ですが、海岸なのに?と思うかもしれませんが、大丹生(おにゅう)の裏山に原木を持っている方が、我が家の長男に収穫体験をさせてくださり、お買い物カゴいっぱいの肉厚の椎茸をいただき、フキは、海を見渡せる水仙畑に出たばかりのものをたくさん収穫させていただき、塩で板ずりしてから丁寧に下茹でして煮物にしましたが、下茹でした時点で風味がとても良く、味見のつもりがいくつも手が伸びてしまいました。

蓬は、とても色や香りの良いものがたくさん入手できるので、餡子入りのよもぎ餅を、ネットで調べたレシピよりも蓬の量を倍に増やして何度も作れます。この爽やかな風味はたまりません。

わかめですが、漁の解禁時期が地区によって異なるのですが、この辺りでは4月の初めから、自治体に入っている人なら天然物のわかめを採ることを許されていて、といっても自分でとるのは大変なので採ったことはありませんが、ご近所の奇特な方々が採れたてをお裾分けくださり、葉の部分は、とれたてをしゃぶしゃぶにして生姜醤油でいただくと最高に美味。採ったその日に天日に干してパリパリにした干しわかめは、子どもたちも大好きで食べ始めると、止まらない。揉んで細かくしたわかめは炊き立てのご飯にふりかけたら極上品のおむすびができます。さらに特筆したいのが、めかぶの部分で、これが食べ方色々。細かく刻んでめかぶとろろ、ざっくり刻んで炒め物、意外にも、大きめに切って炭火で、バーベキューでいただくのが感動的な美味しさでした。越廼の文化人類学者と言える、今は亡き青木捨夫先生が「わかめの旨味が全部この部へ集められたかと思う程美味であり、春の海の珠玉である。」と書かれていますが、決して過言ではないとおもいます。めかぶの味には、すっかり虜になってしまいました。

そして、鯛。越前海岸に来る前は、鯛の美味しさをこれほどまでに堪能できるなんて想像できませんでした。ご近所に住む漁師さんがたびたびご馳走くださって、お刺身は言うことなしの美味しさですし、白身フライにしたり、でんぶにしたりと、春にとれる天然の鯛の味は小ぶりなものほど美味しいような気がします。釣ったばかりの一匹そのままでもよくお譲りいただくので、ここへ来て私も捌けるようになってきました。元々魚捌きは不得意だったのに。

また違うご近所さんに、あみにかかってた、と、カレイをもらったり、畑のレタスやほうれん草をいただくことも…。春はあちこち馳せ走らないのに旬の味覚が押し寄せてきます。

なので休日はこのような頂き物の食材を使った作り置きおかずや保存食づくりに追われたりしています。いただく時に保存の仕方も教わって、数々のレシピを開拓中。これまで知らなかった料理ばかり、あれもこれも我が家の家庭の味にすべく、日々忙しないです。