版画ゆうびん

おさのなおこが綴る越前海岸からの版画の便り

亀島

越前海岸の風景を特徴づけているものの一つとして、海岸近くに浮かぶ独特な形をした、小さな島々があります。中でも、国道を南下する高台から曲がりくねった細い坂道を下る際、パッと海が見えてくる瞬間に姿を表す亀島(福井市松蔭町、別名弁天島)は、これから始まる美しい海岸線の風景を、ドラマティックに教えてくれる存在でもあります。亀の形をした無人島で、国指定無形民俗文化財「糸崎の仏舞」の伝承に登場する糸崎寺(同市糸崎町)の本尊千手観音が、海を渡ってきた時に乗った亀がそのまま島になったとも言われています。

亀島は国道から横道に入らないと見つからないような知る人ぞ知る場所からも見ることができます。見る場所によってその姿や表情を変えるので、ひそかなファンも多いようです。

おいしい水がくめる「水分神社」(同市長橋町)近くの高台からは、上からのぞき込むような感じ。小さいけれど今にも大海に繰り出そうとするようで、一番亀らしく見えます。

「国民宿舎鷹巣荘」(同市蓑町)の駐車場横からは、海際に遊歩道が続いており、30分ほど歩くと亀島園地まで歩くことができます。この園地は最も近くに亀島を眺められます。

ある晴れた休日、息子たちと友人家族を誘って亀島園地へスケッチをしに行ったこともありました。心地よい潮風が吹き抜ける広場の適当な場所に腰掛けて、島のある風景をスケッチしたり、遊歩道をずっと歩いて途中の浜に降り、それぞれお目当ての石を探してみたり、大変ぜいたくな時間が流れました。

思い立って過ごす休日が、このようなかけがえのない日常になってゆくことが、ここに暮らす私たちの特権だとも思います。

越前海岸には、亀島だけでなく個性豊かな島がいくつもあり、訪れる人の目を楽しませるだけでなく、ずっと長い歴史の中で、ごく小さな島でもそれぞれ呼び名を持ち、人々の暮らしとつながっていたようです。

※この記事は、2023年7月13日に掲載された日刊県民福井の連載「越前海岸からの版画ゆうびん第4回」の原文です。