制作に寄せて

版画のモチーフは、心に残った風景、身近な動植物、
変哲の無い日用品、天使や架空の動物たち。
版画作品を日々の暮らしの傍らに、
そっと置いて欲しいと願い、 制作しています。

◎ 版画について

版画とは、板状の銅や木などを彫ったり、
何らかの細工を施して版を作り、
インクの転写などによって絵画を制作する技法です。

銅版からは、銅という適度な粘りのある素材の特性より、 独特の繊細な線を、
木版からは、彫刻刀による木の彫り跡によって、 素朴な温かみと、力強さを持つ線を、
描くことができます。

版画は、版を作り、版を刷る、という工程によって、
ペンや筆では描けない表現ができます。

◎ 版画作品を、より身近に

版画作品や絵画作品は、
それなりの大きさの額に入れられ、美術館や画廊、
住宅の玄関や居間の壁などに飾られるのが普通です。

私たちは最初に、美術館や画廊の代わりに、
人々の胸元に作品を飾ってもらおうと、
極端に小さな銅版画を作りました。

これが、私たちの最初の制作です。

私たちは、版画作品を日々の暮らしの傍らに
そっと置いて欲しいと願います。

そして、その小さな舞台の一つ一つに、
終わらない物語を紡いでいきたいとおもっています。

◎ 「証明」ではなく、「共感」のため

私たちは、自分達の作品や生き方を
「証明」するためではなく、「共感」を得て、
より深い喜びを味わうために、制作を行っています。

言い換えると、私たちの制作は、
日々のコミュニケーションの延長線上にあります。

作品を持ってくださる方たちの、
忙しい日々に寄り添いつつも、
ひとときの静けさをもたらしたい。

そんな想いから、版画を、美術品としてよりも、
むしろ時計など、
日用品としての可能性を模索しています。

◎ 日々の暮らしに優しく響く

私たちは「生活」と「仕事」を
なるべく隔てないように心掛けます。

暮らしの中から作品が生まれ、
作品の中に暮らしの喜びがあります。
どちらも目的でありながら、手段でもあります。

私たちの作品づくりは、私たちが社会や、
自然と、共に在ることを決して忘れません。

私たちの社会に対する存在自体が、
風の音や鳥の声のように、ただ自然として、
優しく佇んでいたいとおもいます。

■ おさのなおこ略歴

横浜生まれ
1998年-2000年 創形美術学校にて版画を専攻

2000年-2006年 山梨県北杜市の創作工房「人力宇宙船」にて、早川薫太郎氏に師事し、制作助手をしながら木工・建築・農の基礎を学ぶ

2007年「版画工房Nao」を設立
2007年-2019年 東京都・神奈川県を中心に制作活動を行う

2019年 工房名を「版画ゆうびん舎」に変更
– 東京都町田市より福井県福井市の越前海岸エリアへ移住

現在福井県福井市在住

■ 主な実績

2014年 広告イラストレーション担当(「クロワッサン」掲載)

2015年「里中トヨ子リサイタル」舞台美術制作 銀座王子ホールにて

2018年「ノスタルジックな読書」港の人書房出版 表紙絵制作

2018年「カフェリリー」店内壁画制作 福井県坂井市

2017年-2019年 版画教室「版画ゆうびん舎」を主催

2019年 あわら市出身の東京焼き菓子店「栗のみ堂」商品ラベル提供

2019年「共栄堂アートプロジェクト」ワインラベル版画制作

■ 地域おこし協力隊として

2019年12月より、福井県福井市の越廼(こしの)・国見(くにみ)地区の地域おこし協力隊へ就任しました。

同世代の地元の事業者の方達のこの土地を愛する想い、特に「越前海岸盛り上げ隊」の方達の発想の豊かさに感銘を受け、地域の方々とともに、地方の過疎化、都心への人口集中という深刻な問題を少しでも解決する為に、自分のこれまでの経験や可能性を生かしたいと思いました。

海あり山ありの自然豊かな地で、子育てをしたかったというのも理由の一つです。版画家として創造的な仕事をする上で最も大切なのは、自然を観察し多くを学ぶこと、また社会を知ること、そして目の前の暮らしを慈しむことだと思っています。

福井県は伝統工芸も盛んで、古き良きものを大切にしながら、新しいものを取り入れてゆくことにも、積極的に取り組んでいる動きがあるところも魅力的です。特に越前和紙は、木版画でも使わせていただくので、生産の現場など見学させていただきながら、関わってゆけたらと思っています。

※2022年12月、任期を無事終了しました。